④ 歩くモヤモヤ

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2022.11.8 更新

④ 歩くモヤモヤ

小山田和正

歩くモヤモヤ

たとえば、ガヤガヤした居酒屋なんかで、友人から「なんで日本では安楽死は認められてないんだろうね?」なんて聞かれたら、「確かに、そうだよね」なんて言いながら、その是非について、僕の考えなんかをテキトーに話し始めるかもしれない。ところが、余命数ヶ月の末期癌の方から、同じ質問をされたらどうだろうか。

僕はいつもの時間に、いつものようにベット脇の椅子に腰掛け、「こんにちは。この一週間はどんな感じでした?」と尋ねた。すると、すぐさま、それを遮るように「なんで日本では安楽死は認められてないんでしょうね?」という問いが放たれた。この部屋には、他に僕しか居ないわけだから、その問いは確実に僕に向けられていて、ズンズンと迫ってきた。

僕は言葉に詰まり、苦し紛れになんでそんな問いを持ったのかを尋ねる。「こんなに苦しく、体は痛いのに、なんでまだ生きてなきゃいけないんでしょうね。どうせ数ヶ月後には死ぬのに。」もう僕には言葉がなかった。頭が真っ白になった。そして、僕はなんとかその場を取り繕い、その問いにシーツを被せて見えないようにした。だけど、そのシーツの輪郭は、クリストとジャンヌ=クロードの梱包された国会議事堂のように、僕の弱さを鮮明に浮き彫りにした。

数ヶ月後、その方は緩和病棟に入り、それから間もなく逝去された。それから数年が経つ。僕はこの場面を思い出しては、抱えたモヤモヤを自問する。僕はどう応えるべきだったのか。どう考えるべきだったのか。自己を否定し、肯定し、また、否定する。このモヤモヤが残っている限り、僕は考え続ける。いつしかそのモヤモヤは僕自身の問いとなり、さらに、そのモヤモヤは僕自身になった。

歩くモヤモヤじゃん。

Whole Crisis Catalogをつくる。青森編 #002

先月、2022年10月20日、話題提供者としてジェンダーやセクシュアリティ、人権に関する活動で知られる弘前大学男女共同参画推進室の山下梓さんをお迎えして、2回目となる「Whole Crisis Catalogをつくる。青森編 #002」を開催した(本家である汽水空港 モリテツヤさんには感謝申し上げます)。

山下梓さんには、僕から事前に『個人的には「差別」について考える場になったらいいなぁと思っている』旨を話していたけど、基本的には、山下さんにその「時」や、その「場」の雰囲気で思いついたことを話してっていう、なんともフンワリした要望をお願いしていた。きっと山下さんもすごく困っただろうなぁと、今さらながら恐縮している。

山下さんはそんな僕の面倒な要望にみごとに応えてくれた。現在進行形で、正解や答えのない場でたくさんのモヤモヤを経験されている山下さんの持つ雰囲気や、そこからポツリポツリとゆっくり紡ぎ出される言葉は、その場をじわりと「自分たちで考える」雰囲気に変えてくれたし、参加された方々も、山下さんに応じるように、暮らしの中から出てくる素直な声や問いを、「自分ごと」としてテーブルの真ん中に無防備に放り出してくれて、きっと他にはない貴重な時となり、場となったのは本当にありがたいことだった。

今回は、結果的に「差別」が中心のテーマとなって話しが進んでいったが、僕は事前に「差別について考えます」という告知はしていない。話題が固定化されちゃうのがつまらないなというのもあるし、固定化することで、全員を同調させるような強い流れができちゃう感じもして、それはそれで気持ち悪いなと考えていた。たとえば、「差別」の話しからはじまったけど、最終的に「最近食べたスイーツ」の話しになっていたというのも面白いし、それはそれで、それらの関連性について考える機会ができるわけだからウキウキする。

次回はいつになるか予定はしていないけども、こんな感じで継続的に開催(山下さんにも年に1度は、とお願いしています)していくし、もし、機会があれば、いろんな立場の方の声を聞きたいと思っている。

そうそう、参加された方から、「普段の生活で自分のまとまらない意見や思いを話す機会がないので、こういう場は気持ち良い!」っていう声が目立った。考えもしなかったけど、なるほど、僕も確かにそうかもと思う。

今回の書き起こし議事録(ZINE)は「Whole Crisis Catalog をつくる。青森編 #002(コピー用紙・ホッチキス留め・50pg)」として1冊にまとめたので、興味ある方は、こちらから申し込みください

モヤモヤを抱く

Whole Crisis Catalogをつくる。青森編 #002」が終わって、僕は参加者のお一人からメールを頂戴した。ずいぶん端折ってしまうけども、だいたいこんな内容。

「(略)当日は、迷ったけど、せっかくなので、言ってみたいことを言ってみました。でも、言いながら、なんかちょっと自分が言いたいことと違う感じになってるかも?と思いました。

あれからずっと考えを巡らせ続けていて、でも、最終的に、この考えを巡らせ続けることが大切なんだと落ち着きました。もっと考えを巡らせたい。もっと知りたいし、聞きたいし、話しをしたい。また参加させてください!」

議事録(ZINE)にも記載したけど、僕がこの場に望んでいるのはモヤモヤだ。手土産にその場のモヤモヤをテイクアウトしてもらえたらと考えている。そのモヤモヤは、自分とは違う意見を聞いた気持ち悪さだったり、納得のいかなさだったり、イラだちかもしれない。夕食時にそのモヤモヤを肴に家族とシェアしてくれたらなと思っているし、昼食時に職場で弁当とモヤモヤを広げてみんなでシェアしてくれたらなと思っているし、或いは、遊び仲間と呑みながら感じたことをぶつけてみるのも良いかもしれない。そのモヤモヤが、いろんなところに散らばっていけばいいなと思う。

安易にスッキリさせるんじゃなく、モヤモヤを抱きながら、様々な視点の意見を聞いてみたり、本を読んだり、学んだり、経験したり、自分で調べてみたりする。そのモヤモヤは、僕自身の問いになっていく。考え続ける。そして、いつしか、そのモヤモヤは僕自身になる。少し時間はかかるけど、きっと、多様性とか、エンパシーとか、他者理解って、ここがスタートのような気がしている。

歩くモヤモヤじゃん。

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追記:WORKSHOP VO!!の謎キャラ↓は、随分まえに、歩くモヤモヤをイメージして描きました。そうだ「モヤモヤくん」と命名しよう。

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小山田和正
一般社団法人WORKSHOP VO 代表理事
元)東日本大震災津波遺児チャリティtovo 代表
法永寺(青森県五所川原市)住職
FMごしょがわら「心を調える(毎週月13:10)」