① 梅の木の剪定枝から考える生物多様性

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2022.6.13 更新

① 梅の木の剪定枝から考える生物多様性

赤石嘉寿貴

今年の3月から愛知県の新城市にある福津農園(ふくづのうえん)で農業の研修をさせていただいている。

本格的に研修をしたいと思った時に真っ先に頭の中に浮かんだのが、弘前市のしらとり農場に通いで研修させて頂いてる時に何度か話に出てきた福津農園だった。昨年12月に見学させていただいた際に園主の松沢政満さんの考えている農業の全体像を聞いたこと、そして実際にそれを実践した結果であるその農園を見た時に「ここで農業を学んでみたい!」という思いが湧き上がった。

松沢さんが語るのは実際の農法、経営云々ではなく、普通に暮らす自分達にも関わる地球環境を視野にいれた農業の在り方などだった。そういうことを考えることがひいていは自分達の身近な暮らしの問題と関わり合っいるということが分かってくる気がしている。

そんな松沢さんの考え方や、それを考えながら作業することで自分が思ったことなどをこれから書いていきたいと思う。

3月こちらに来て最初の作業は梅の木の剪定だった。と言っても剪定するのは松沢さんで、自分は切り落とされた枝を細かく切るという作業をしていた。その木の枝の下や木の根元、いたるところに剪定された枝は落ちている。ここに来たばかりの自分は何も考えることなくそこにある枝をただ細かく切ってその場に落としていた。木の枝が邪魔だなと思って木の枝がない作業しやすい場所に移動して作業をしたりしていた。

その時松沢さんが言われたことにハッとした。

「作業しやすからといってその木から離れた場所で切って、そこにその木の枝を朽ちさせるのか、作業はしづらいけれども枝を落とした木の根元にその枝を朽ちさせるのか。自分のことだけを考えて作業するのか、そこに住むすべての生物のことを考えて作業するのかで結果は大きく違ってくる。よく観察することが大事だよ。」

松沢さんがよく話される「生物多様性」の考え方がここにも表れている。人間の手が入らない森に生えている木々を想像してみて欲しい。彼らは枯れてしまった枝や、葉を自身の根本や枝の下に落とす。いや落ちるのか。その枝や葉は落ちた後、地面の上に生活している虫達や地表近くに住む微生物達の住処や食料となり、長い時間をかけて少しずつ分解されて朽ちていく。そして、地中のミミズや微生物達にさらに分解されることで自分達が普段「土」と呼んでいるものに変わっていく。木自身が生きていくために必要な「土」の一部はそうやってできていく。

梅の実を得るために「剪定」という人間の手が入った梅の木に対してできることは、自分の作業のしやすさだけを考えることではなく、梅の木の生を第一に考えることだろう。先程あげたように木は自身だけでは生存していくことができない。その周りに暮らす虫や微生物のことも頭の中に入れておくことも必要だし、考えを膨らましていくと種を運んでくれる鳥たちや小動物の存在も見えてくる。大きく成長してたくさんの実をつけるためには太陽光を受けるためのたくさんの葉が必要になるし、その葉を守る虫達の存在も見えてくる。

人間の見えない世界にも意識を拡大していくと梅の木はただそこにあるのではなく、たくさんの生物との共生のもとにそこにあることが分かる。だからこそ、枝を切るという作業一つとってみても自分に意識を向けるか、梅に意識を向けるかでその結果は大きく変わってくる。

効率性だけを考えて作業したり、邪魔な枝は持ち出したり、虫を排除するために殺虫剤を撒きすぎたりすることで、その時人間にとって不都合なことは排除できるかもしれない。でも、それは不自然なことで、自然環境を壊してしまった結果の自然災害や、作物だけたくさん欲しいと考えて虫を嫌い、草を嫌い、それらを排除するために使われた薬のために表れてきた人間の健康問題など、時間をかけてカタチを変えて地球からのしっぺ返しを受けるはめになるのはまさに人間自身。

人間が木の生に手を入れてしまった以上、梅の木のことを(その周辺の生物まで含めて)考えないと結局は、安心、安全で美味しい梅の実という恩恵に預かれなくなるばかりか、梅を食べる自分達自身の存在も危ぶまれる。

「生物多様性を大事にしよう!」なんて言われるとなんだか大きなことすぎて一歩引いていしまうのは自分だけだろうか。大きくて見えづらくて何をどうすればいいのか分からないことだけれど、梅の木一つに思いをはせるだけでも生物多様性ということは十分に考えられる。梅の木やその周辺で暮らす生物を大切にすることは回り回って自分達自身を大切に扱うようなものである。一時、自分の身近にある木や植物の視点に切り替えて、そこで営まれている小さな暮らしを覗き込んでみるだけで、そこにも小さな生物多様性が広がっていることを実感できるのではないだろうか。

他にも伝えたい松沢さんの視点があるけれど今回はこのへんで終わりとしよう。また次回お会いしましょう。

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赤石嘉寿貴
生まれは大阪、育ちは青森。自衛隊に始まり、様々な仕事を経験し、介護の仕事を経て趣味のキューバンサルサ上達のためキューバへ渡る。帰国しサルサインストラクターとして活動を始める。コロナ禍や家族の死をきっかけに「生きる」を改めて考えさせられ、現在は愛知県新城市の福津農園の松沢さんのもとで農業を勉強中。 Casa Akaishi(BLOG)