⑱ そこにあるものに気づくために

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2023.11.19 更新

⑱ そこにあるものに気づくために

赤石嘉寿貴

今週から急に寒くなってきた愛知県の新城市、全国的に冷え込んでいるのだろうか?キッコリーズの仕事が忙しくて師走の和尚様かと思うくらいにあちこちに走り回っていた。

毎月7日に更新を目標にしていたサルサソースを更新することができず、すでに11月も後半戦に入っているではないか!本来なら10月のことを振り返りつつ何を書こうかと考えるのだけれどすでに11月の体験が頭をしめている。

ネイチャーゲームリーダー

11月も始まった頃に「ネイチャーゲームリーダー養成講座」というのに参加してきた。社長に教えてもらって参加してみようと思った。新城キッコリーズでは市内の小学校へ森林・林業環境学習の出前講座を行っている。その中でフィールドビンゴというものを体験したことがあった。

すべすべの木肌の木、トゲトゲの葉っぱ、手のひらの大きさの葉っぱ、いい匂いのするものなどなど、自然の中からそれらを仲間と見つけるというものだ。ビンゴを達成するすることも遊びの要素として大事だけれど、それよりも何よりも自然をよく観察する目を養うということも一つの目的になっている。そして班になった仲間とともに探す、みんなの同意を得たりしながらコミュニケーションを取っていくスキルも身につける。

僕が今回受けたのは新潟県の妙高市で開かれたものだった。色んな県で開かれているのだけれど単純に旅したい欲が出てきてわざわざ新潟県まで脚を伸ばした。朝3:00に出発して夜があけるころには新潟県に入っていた。僕が暮らして、いつも見ている新城市の山とは全く違う表情がそこには広がっていた。殆どが広葉樹で黃色や赤色や橙色からなるグラデーションで山は彩られていた。それらの木の間に申し訳程度にスギ・ヒノキがヒョコッと顔を出しているくらいで360度、紅葉している山々に囲まれていた。

妙高山のふとにある国立妙高青少年の家を拠点に講座が開かれた。さっそく自然の中に繰り出して、そこで自己紹介ゲームや「私はだれでしょう?」といういうような動物のカードを首の後ろにつけてどんな特徴があるかを聞きながら自分はなんの生物のなのかを当てるというゲームをしたりした。

ミクロハイク

すごく面白かったのが虫眼鏡を持って大胆に地べたに頬をつけて虫の目になって草や木の表面、岩に生えている苔やなんかを見たりするアクティビティ、これは衝撃的だった。普段見下ろしている「土」や「草」を僕らは一括りに見てしまっているんだということに気付かされる。

虫の目になってみるとまるで森のようだし、木の肌に沿って下から眺めてみると超巨大な鉄塔か何かと思えてしまう。草、草と言っているけれど、一度虫眼鏡を持って草にクローズアップしてみると葉の周りに産毛みたいなものが生えているものや、葉脈が血管のように走っているのが見えてくる。同じ草でもそれぞれに表情が違う。

サウンドマップ

見ること一つとっても新しい体験だったけれど、2日目のサウンドマップというゲームもいい体験だった。ちょうど池があったのでぼくはそのほとりに座って目を閉じて聞こえてくる音に耳をそばだてた。聞こえてくる音の方角と音を記号で表すというのがこのゲームで最後出来上がったのを見ると自分でも何を書いたの分からなかったけれど、普段から音を出しているものはたくさんあるのだろうけれど、無意識に聞きたい音ばかりを拾っているのだろう、自然に耳を傾けてみると本当にたくさんの音が鳴っていることに気がつく。

風がこずえを揺らす音、葉っぱが舞い落ちて地面に落ちる音、どんぐりが地面の枯れ葉を鳴らす音、鳥たちが移動しながら話している音、子供たちがワイワイとなにかを話している音、耳を通り過ぎる風の音、耳のそばでする虫の羽音、飛行機が上空を通り過ぎる音、遠くで走る車かバイクの音。

サルサの音に浸るのもいいけれど、自然の音に浸ることで心が落ち着く、音はそれぞれに心や感情に影響を与えるものだと思う。サルサの音楽が体に響けば元気が湧いてくるし、踊らずにはいられないし、他の生物の音は理解できないけれど何を話しているんだろうか?とか好奇心をくすぐるし、理解できないからこそ音そのものを聞こうとすることに気持ちが動いていく。

2日間、他にも自然を使ったたくさんのゲームをやっていった。フローラーニングと呼ばれる手法で少しずつゲームを体験していく。

1.熱意を呼び起こす

2.感覚を研ぎ澄ます

3.自然を直接体験する

4.インスピレーションを分かち合う

それぞれのゲームがこの4段階に分かれていて、最後のインスピレーションを分かち合うところへ収束していく。

みんなとポエム作り

最後にやったフォールドポエムというゲームで作った詩は、この2日間を共にネイチャーゲームを一緒にやってきたもの同士だったから作ることができた作品だったと思う。

最初の人が一文を書いて、それに答えるように字を添える。そしたら、一度紙を折りたたみ、先程添えた人が新しい文を書く。そして紙を折りたたんで何を書いたのかわからないようにする。これを4人でやっていく。最後の人が書き終えるまで、だれもどんな詩ができるのかは分からない。最後にみんなで朗読して「なんかいい感じになったね」なんて一体感が生まれた気がした。

まとめ

今回は、ネイチャーゲームの体験談を書いてみた。小学校の出前授業で体験したネイチャーゲームだったけれど、これはけっして子供達だけのものではなくむしろ先に生まれたもの今を生きている大人達にこそ必要なものなんじゃないのかと思った。今の子供たちが自然から離れてしまっているのは周りにいる大人が自然から何かを学び、自然を味わうということを忘れてしまっているからなのだと思っている。

子供や大人を虜にしてしまっているスマホやゲームがある現代だからこそ、そういうデジタルなものからは得ることができない知覚力というものなのだろうか、実際に触れて、匂って、聴いて、リアルな人と結びつきあうことの面倒臭さや大切さ、自分を理解して、相手を知ろうとして、コミュニケーションを取る。そんなことを僕らの力ではどうにもならない自然の中で体験しながら能力をつけていく。人間から失われつつある能力が蘇るような気がする。

ぼくらは色んなものを失ってみてからじゃないと気がつけない性分なのかもしれない。

いつもは傷ついて使えない親指が痛むときにしかその存在のありがたさを感じられなかったとしても、いつもそこにあるものにこそまた目を向け意識を向けてみることをネイチャーゲームを通して学んだ。


赤石嘉寿貴
生まれは大阪、育ちは青森。自衛隊に始まり、様々な仕事を経験し、介護の仕事を経て趣味のキューバンサルサ上達のためキューバへ渡る。帰国しサルサインストラクターとして活動を始める。コロナ禍や家族の死をきっかけに「生きる」を改めて考えさせらた。2023年3月愛知県新城市の福津農園の松沢さんのもとで研修を終え、現在は山について学ぶべく新城キッコリーズにて木こりとして研修中。 Casa Akaishi(BLOG)

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