⑤「不妊治療をオープンにできずにいる人へ」

HOME連載 | 私と生活圏 ‣ ⑤「不妊治療をオープンにできずにいる人へ」(2023.10.1)

tag : #私と生活圏

2023.10.1 更新

⑤「不妊治療をオープンにできずにいる人へ」

藤林 秀

不妊治療を行った母親から話を伺う機会がありました。
様々な話を伺いました。
主訴としては「すごくストレスを伴う」と言う点に集約されると感じました。
不妊治療に伴う主なストレスとして、以下の3点の話を伺いました。

①生理が来る緊張

毎月の生理のタイミングになると、その数日前から緊張する、と言う話を伺いました。
いつものタイミングに生理が来ないと「あ、今回はいつもの月より3日遅い!もしかして」と妊娠を期待します。
しかし、その後生理が来ると、一か月の努力が実らなかった、残念な気持ちになります。
それが治療を開始して一年後にまで及ぶと、絶望に近い気持ちを感じることと思います。
私がお話を伺った方は、生理が来るたびに、愚痴っぽく、悲しみを込めたラインをママ友に送っていたそうです。
「今月も来ちゃったよ」と。
不妊治療中の母親は、毎月の生理のタイミングが近づくと、「生理が来ないでください」と願う生活を送っていると伺いました。

②相談できない

私がお話を伺った方は「女性の間でも、不妊治療についてオープンに相談しづらい雰囲気がある」と話していました。
厚生労働省の出生動向調査によると、不妊を心配したことがある人の約半数が「実際に治療を受けたことがある」「受けている」と解答していますが、まだオープンに話しづらい雰囲気はあるようです。
私がお話を伺った方は子育てサロンに参加して、複数の母親と不妊治療について話をしていました。
その会話は「一対一で」「端の方でヒソヒソと」行われたそうです。

③強制的に生活が制限される、と感じる。

不妊治療が開始されると、医者に状態を伝えて、治療の方向性や生活上気をつけることを提案されます。
この「医者から」「生活上気をつけること」の2点に、ストレスになるポイントがあると感じました。

「医者から」については、不妊治療における医者と患者の信頼関係は、定期的に通院している間柄、以上の信頼関係が必要なのではないか、と感じました。
と言うのも、不妊治療を行う母親は、受診するまでの段階で、すでにストレスを感じています。
具体的には、「不妊は女性が悪い」と言う世間のイメージを敏感に感じとってしまうことによるストレスがあります。
夫婦で不妊治療を行うことによって、夫に知られたくない性的な部分を夫に知られてしまうかもしれない不安もあるでしょう。
不妊治療を、これまで定期受診している病院で行うとしても、これまで医者に伝えていなかった性的な情報を伝える場面も出てくるかもしれない、という不安もあるかもしれません。
それらの不安を掻い潜って、母親は不妊治療を開始します。
そう考えると、定期受診の時よりも高いレベルでの、医者と患者の信頼関係を築くことができるか、という不安がストレスになっているかと考えました。

「生活上気をつけること」も、ストレスになるかと思いました。
医者と信頼関係が築けていない状態で「妊娠するために〇〇食べないでください」「妊娠するために〇〇しないでください」と言われると、日常を制限された気持ちになります。
医者としては、妊娠するための情報を伝えているのも十分承知しています。
しかしながら、信頼関係を築けていない状態で、急に行動を制限する発言をされると、患者としてはストレスになることと思います。
信頼関係が築けていない状態で行動を制限された(と夫婦が感じてしまう)のであれば、医者とのやり取り自体が母親のストレスの一因になってしまう可能性があります。

先行研究から感じたこと

先行研究では、不妊治療を行っている女性には軽いうつ的傾向が見られること、治療が長い程心理的苦悩を抱えていること、体外受精を行った場合は身体への影響も感じていること、職場環境が影響を与えること、世帯年収による影響があるということが示唆されていました。

上記の①~③を踏まえると、軽いうつ的傾向が見られるくらい心理的苦痛を感じることと思います。

不妊治療における保険適用には年齢制限や回数制限があるため、家計への影響も想定されます。

そのうえで、私が伺った話を振り返ると、不妊治療を行っている全夫婦が、本当に頑張って取り組んでいる実態が伺えます。

 

一方で、治療したけれど子どもができなかった女性のうち、体外受精を行った人の方が、精神疾患により入院する割合が低いことが示唆されていました。著者は、不妊症を乗り越えレジリエンス能力(自分にとって不利な状況に対応・回復すること)が高いこと、ケアを積極的に求める姿勢が影響しているのではないかと考察していました。

まとめ

たくさんの事を書いてきましたが、私が強く願うことは「不妊治療をオープンにして、そのストレスを発散できる社会にしていきたい」と言うことです。
不妊治療によるストレスは、先ず夫婦に降りかかってきます。
不妊治療によるストレスをオープンにできないと、不妊治療のストレスを夫婦2人で受け止めるしかない状況に追いやられてしまいます。
最初は「二人の責任なんだから、二人で頑張ろう!」と言う思いでも、治療が長期化すると「こんなに頑張っているのに妊娠できない」「誰にも相談できない」と、閉塞感を感じてしまうかもしれません。

しかしながら、不妊治療をオープンに話ができれば、そのストレスを親族や地域でケアできる可能性が出てきます。
不妊治療におけるストレスを受け止める場として居場所活動や子育てサロンが機能できれば、夫婦の孤立感を緩和できるかもしれない。
話は変わりますが、生理の貧困が話題になったことにより、生理について話題にしやすい気運が高まったと感じています。
不妊治療についても、話をしやすい気運が高まり、夫婦を孤立に追いやることのない社会に変わることを願っています。

そして、当たり前じゃない妊娠と出産を行ったママと、生まれてきた子ども達に感謝いたします。

※写真は、マックカフェがすごい美味しそうだから買ったけど、ハンバーガーとポテトを食べたらおなか一杯になっちゃった息子

目次へ | 次へ

Support our projects

藤林 秀
・NPO法人ほほえみの会 就労指導員
・母親と子どもの居場所活動 family café あづま~る代表
・子ども食堂 憩いの広場ここまる 主催チームなないろ副代表
・保育士
・修士(健康科学)