③「丁寧な会話が伝えるもの」

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2023.8.1 更新

③「丁寧な会話が伝えるもの」

藤林 秀

先日、息子とその友達と計5人が遊んでいました。
みんなが解散するタイミングになり「明日何する?」との話題になりました。

そこで全員が「午前無理」「13時以降にする?」「俺は大丈夫」等と都合を伝えあいました。
みんなの意見で合致しているのは「明日みんなでラーメンを食べに行きたい」と言うことでした。

でも、メンバーの一人のA君は部活で行けそうにありません。
A君は「あー、俺部活なんだよね」とのこと。
他のお友達が「13時は?」と聞いても「あー…微妙」と、どの時間でも絶妙に予定がかみ合わない様子でした。
他の子は何とか予定が合うのに、A君だけが微妙にかみ合わない。
しかも、部宅の終了時間が定まっていないからか、A君もはっきりとした返事ができない様子です。

A君は「いや、明後日も休みだから(祝日の関係で)明後日とかは?」「いやそんな、明日の午後じゃないとダメ?」等しつこく何度も提案をします。
約20分くらいやり取りが続きました。

お友達は「うん」「あー」と相槌を打ちながら話を聞きます。
どの発言があっても、絶対に相槌を打っていました。
A君以外の4人が納得した時には、同時に「あー…」と言う場面もありました。
その「あー…」が相槌の役割を果たしたのか、A君は、また話し始めます。

1,2秒ほど沈黙があったときには「あー、そしたら13:00なのが問題なん?」と、要約を行います。
それに対してみんなが「だね」「じゃあ近いところ(ラーメン屋)にする?」と、また新たな提案をします。

全部で20分程会話していたでしょうか。
たくさんの会話がされました。

会話をする中で私が感心したのは、ちゃんと会話ができていることです。
「ちゃんと会話をする」
日常会話における「ちゃんと会話をする」ことのヒントは、「傾聴技法」と呼ばれるものにあると感じています。
今回の技会話の中で使用された技法は
①合意形成(全員が納得する形まで会話を持っていく)
②相槌(相手の発言を相槌で促す)
③要約(会話が飽和したタイミングで、会話のこれまでの流れを要約する)
の3つが主だと感じました。

息子と友達の全員で、「全員でラーメンを食べる」と言う合意を、まず最初に形成しました。
息子とその友達全員で妥協なく合意しようとする気持ちは、20分を費やしたことから伺えます。
適所で相槌を全員が打ちます。
それによってA君の発言が促されました。
沈黙ができたタイミングで要約し、問題の所在や、新たなA君からの提案を促しました。

今回の会話から、「ちゃんとした会話」を息子とその友達ができていると感じました。
最後まで話を聞いて、相槌を打ち、要約して相手の話を聞いていました。
傾聴技法を用いた会話は、相手の気持ちへの尊重を伝えることができます。
丁寧な会話からは、「相手の会話を、引いては気持ちを受け止めます」と言う暗示的なメッセージを伝えることに繋がります。

皆さんは「ちゃんとした会話」ができますか?
「したってそうやればまだ同じだっきゃ(そういっても、それをやったら、また同じだ)」「それやったのナだっきゃさ!(それをやったのはあなたでしょう!)」と言った形で、最後まで話を聞かずに会話を遮ったことはありませんか?
売り言葉に買い言葉で、相手の会話の勢いに流されて、相手の発言を遮って発言をしたことはありませんか?

「ナ、それで良いんだば良いね(あなたがそれで良いなら良いよ)」と伝えていませんか?そのメッセージを否定する気持ちはありません。しかしながら、会話が飽和していないのにその発言をしてしまうと「私に興味が無いんだな」「その程度にしか物事を考えていないんだな」「適当な人」と言う印象を与えてしまう可能性があります。

「あなたの事を尊敬しています」と言わなくても、相手に尊敬の気持ちを伝えることができます。
その技法が「傾聴技法」だと考えています。
それを自然に使って20分かけて合意を形成できた息子とその友達に対して、尊敬の念を抱きます。
この20分を経たからこそ、みんなで食べたラーメンはより美味しかったことと思います。
私自身も「ちゃんとした会話」を通じて、相手に敬意を伝えたいと感じました。

※写真はざる中華を2人前食べて限界の息子

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藤林 秀
・NPO法人ほほえみの会 就労指導員
・母親と子どもの居場所活動 family café あづま~る代表
・子ども食堂 憩いの広場ここまる 主催チームなないろ副代表
・保育士
・修士(健康科学)