⑧ まっくらな中でともに弱い。

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2023.3.3更新

⑧ まっくらな中でともに弱い。

小山田和正

不安

この半年ばかり、オンラインで支援関連の講義を受けていた。資格が欲しいわけではなく、講師陣が僕の尊敬する先生方ばかりだったし、彼らの考え方や姿勢、もっと言うなら生き方を学びたいと軽やかな気持ちで受講したが、かなりの重量のある内容で、なんとかやっとのこと、やっとのこと最終講義、東京での2日間のスクーリングまでたどり着いた。

全国からスクーリングに集まってくるのは、いろんな資格を持った、それぞれの現場で既に活躍をされている専門職の方ばかりだろうから、お坊さんである僕はあきらかに場違いで、専門用語とか、行政や福祉の仕組みだとか、現場での困難だとか、そういうのをよくわかっていない僕なんかが参加してしまってもいいんだろうか?と、集合時間ギリギリまで、会場近くのカフェでコーヒーをチビリチビリと飲みながら、ため息で不安を膨らませていた。

会場に入ったのは集合時間10分前。すぐに僕の尊敬する先生方のお顔が目に入って、あ、サインもらいたいな!っていう気持ちにもなったけど、すでにほとんどの方が4人ほどのグループに分けられたテーブルに座って、それぞれ開講時間を待っていた。案内されたテーブルに向かい、すでに席についていた3人の方々に「青森から参加しました小山田です。」とかなんとか軽く挨拶して、名刺を交換したりして、その席に座った。

まもなく開講の挨拶がはじまり、そのまま講師の講義に入った。あぁ、ついに僕はこの先生の生声を聞いてるのだ!と気持ちが高揚した。と同時に、その軽やかでありながらも現場での経験に深く根ざした言葉の数々は、さて僕は本当にここで丸2日間の講義を受けるに相応しい人間であるのだろうか?という不安な気持ちにもさせた。

ともに弱い

先生の話が終わり、すぐに同じテーブルに座る4人でのグループワークに入った。「半年間の講義に関して、それぞれが気になったところを話す」というような内容だったと思うけど、住んでいる場所も職種も背景も全く違う初対面の4人どうしなわけで、自己紹介的な内容をたぶんに含めながら、今までの講義内容についてさまざまにおしゃべりが展開していくことになった。

あとでグループワークで話したことをまとめて発表しなければならなかったので、ひととおり皆が話し終わって、それをまとめはじめた。すると「結局、僕ら4人が話したことって、講義の中でも触れられていた『ともに弱い』ってことだったのかもね。」という話になった。確かにそうだった。視点は違うけど、みんなそれぞれの立場で、弱いものどうしだからこそ共生できる、支え合えるっていう話、つまり『ともに弱い』って話をしていた。

それを受けて、また『ともに弱い』についておしゃべりが始まった。僕はみんなの話を聞きながら、僕が普段感じていることを話してみた。

「僕は僕自身をとても弱い人間だと思ってるんだけど、でも、社会的にはお坊さんっていう立場で、多くの人はきっと僕をある種、強い人間だと思っていて、だからこそお坊さんって認められているところもあるんじゃないかなと思っていて、だから、僕はある意味、その要望に応えるように、場面場面で、僕は強い人間を演じながら生きてたりするんだけど、それが結構苦しいこともあって。その苦しさって何かな?って考えると、意図せずに共生の枠、『ともに弱い』枠から外されてしまう感覚なのかもしれないなって、今思ったんです。
みなさんもそれぞれ専門職で、だから、誰かから相談されたりすると、それは解決してくれることを期待されてですよね、それで専門家に相談されると思うんですけど、その期待に応えようとする時、ある種強い自分?が出てきたりするのかなと予想するんです。意図せずに強い自分にされてしまうっていうのかな。そういうのと『ともに弱い』っていう支援のカタチってどう繋がってくるのかなぁと考えたりするんですよね。」

「それ、わかりますね。窓口に相談に来られる方は、専門家が自分の困りごとを一発で解決してくれるような感覚なのかもしれないです。解決できないと、なんだ専門家じゃないのかよ!みたいな。でも、一人一人の抱える問題って、本当に複雑で、ほとんど一発で解決できることもないし、一人で解決できることもないんです。その複雑さが見えにくい、気づきにくいのかもしれないですよね。まず、それに気づく必要があるのかも。その上で、先生が講義でお話されたように、質より量ってことになるんだと思います。それぞれが弱い存在だからこそ、たくさんの人とつながりながら、みんなで支え合いましょうっていう。『3本のロープより100本の糸』ですよね。」

そんな感じで、僕らのグループは、その日の講義終了まで、ずっと『ともに弱い』について話をした。普段の立場や、職種を超えて、こんなオープンクエスチョンについて話ができる場所って、とっても貴重だなと思った1日目だった。いつの間にか、僕の不安も消え去って、明日の講義が楽しみになっていた。

ダイヤローグ・イン・ザ・ダーク

その日の講義終了後、講師先生方を含めた懇親会が開催されたのだけど、僕は、めったに来ることのない短い東京滞在中に、「ダイヤローグ・イン・ザ・ダーク」を体験したいと計画していた。尊敬する先生方と酒を交わせる機会など今後訪れないかもしれない。だけど、どうしても今回は「ダイヤローグ・イン・ザ・ダーク」に行きたくて、懇親会を断り、後ろ髪を引かれながら竹芝へ向かった。

夕方、ダイアログ・ダイバーシティミュージアムのスタッフの方から電話を頂いていた。「小山田さんが予約された時間帯は、現在申し込みが1人なのですが、もし少し到着時間を早めて、1つ前のに参加することができるなら、その時間帯は2人の申し込みがあるので、よかったら3人でまわってみませんか?」っていう内容だった。その方が面白そうだと思って快諾し、僕は少し早めに会場に到着できるよう急いだ。

初めて聞く方もいるかもしれないので、サイトから概要を拝借すると、

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、視覚障害者の案内により、完全に光を遮断した“純度100%の暗闇”の中で、視覚以外の様々な感覚やコミュニケーションを楽しむソーシャルエンターテイメント。

» 一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ

とある。読むだけでドキドキするでしょ?僕が体験したことを細かく書きたいけど、でも、実際に体験してビックリした方がいいと思うので、以下、なるべくネタバレなしで、僕の気持ちだけを記していこうと思う。

会場には、なんとか迷わずに着けてホっとした。スタッフの方が聞き上手で、フレンドリーにいろいろと話かけてくれるので、僕がこれをどれだけ楽しみにしてきたかとか、こんな記事を読んで興味を持ったとか、ちょうど期間限定で同時に開催されている別企画「ダイアログ・イン・サイレンス」について尋ねたりとか、ついついしゃべり過ぎてたら、僕と一緒の回に参加する予定の2人の女性が到着し紹介された。1人の方が2回目の参加、僕ともう一人の女性は初めての参加だった。それぞれ初対面の3人がこれから真っ暗闇を90分間、一緒に歩くことになる。

アテンドしてくれる視覚障害者の方が自己紹介をして、僕らもお互いに、それぞれ呼びかけやすいニックネームを決めた。僕の旧友は、僕を「カズさん」って呼ぶから、「カズさん」って呼んでもらうことにした。結構恥ずかしい。で、それぞれ体格にあった白杖を持って、床を軽く叩いたり、滑らせたりして、床の状態を探る練習をしたり、あるいは、手の甲を使って、障害物や壁の肌触りなどを確認する練習をしたりした。その時間は、へー!なんて、自分でも楽しいことがはじまるような、浮ついた気持ちでいたと思う。

さて、そろそろ中に入っていきましょうってことになって、大きな扉を開けると、まず1つ目の部屋がある。そこは薄暗い部屋で、まだなんとか「見える」世界。ここで少しおしゃべりをして、身体やお互いの緊張をほぐしていく。さて、次の部屋からは「純度100%の暗闇」の世界へ。

アテンドが先頭で、2回目の参加になる女性がその次、で、その後ろが初めての参加の女性、一番最後に僕が入った。数歩進んで、足がすくんだ。「純度100%の暗闇」は本当に「純度100%の暗闇」だった。これだけの暗闇を経験したことがない。目をどれだけ凝らしたって全く見えない。怖くて足が前に出ない。もうダメかもと思って、後ろに下がろうとしたって、後ろだって同じように真っ暗闇だ。確実に安全な場所は、たった今、僕が立っている場所だけという感覚。

白杖に頼って、感覚を研ぎ澄ませて一歩一歩、恐る恐る足を前に出す。「カズさーん!こっち、こっち!」って僕を呼ぶ女性の声がする。結構遠く聞こえる。あれ?結構先に進んだんだな。その声を頼りに、また恐る恐る足を前に出す。もう一度「カズさーん!こっちー!」と呼ばれる。彼女の声の方へ進む。僕の白杖が、たぶん女性の足にぶつかった。「あ、ゴメンなさい」って僕は言う。「いえいえ」って彼女は応える。やっと追いついた。この安心感。

あんまり内容は詳しく書かないけど、それから僕たちは「純度100%の暗闇」でいろんな体験をした。いや、それ無理でしょ!って思うこともあったけど、でも、お互いに声をかけあって、お互いに気持ちを寄せ合いながら、それなりにできてしまうのが不思議だった。知っているのはニックネームだけで、それぞれお互いのことはほとんど知らないし、顔さえも思い出せないけど、でも、僕ら3人はいろんな話をしながら、支え合って、真っ暗闇を歩いた。そこを出る頃には、ずっと昔から一緒にいる仲間みたいな感覚になった。

まっくらな中でともに弱い。

終了後、大きなソファーに座り、アテンドを含めて、参加者で気持ちをシェアする時間があった。お2人の女性のコメントもそれぞれ示唆に富み、思考が掻き立てられるものだった。彼女たちも、僕がその時感じていた感覚と同じような想いを話してくれたので、なんだか安心もした。

僕は、この「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に参加する直前までのスクーリングで『ともに弱い』ことについてグループで話してたことをシェアしてみた。そして、僕は、今日ずっと考えていた、でもぼんやりしていた、みんなが『ともに弱い』こと、そして、それゆえに支え合わなければならないこと、それがきっと共生の姿であることを、やっと今、ここで、この場所で心の底から実感したのだと思う、という話をした。その上で、本当にありがたい経験だったとみんなに感謝を述べた。きっと明日のスクーリングはちょっと違う視点で受けることができるかも?そう思った。

考えてみると、僕らはみんな、明日なんてどうなるか分からない今を生きている。僕が体験したように、まっくらな中を一歩踏み出すのは、いや、一歩後退りすることでさえ、とてつもなく怖い。不安でいっぱいになる。それでも、僕らがその一歩を踏み出そうと心に決めて、ついに一歩踏み出すことができるのは、一緒に歩いている彼女が僕を呼ぶ声だ。だけど、彼女だって僕と全く変わらない不安を抱えたまま、僕と全く変わらないまっくらな中を歩いている。

まっくらな中でともに弱い。

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小山田和正 linktr.ee
一般社団法人WORKSHOP VO 代表理事
元)東日本大震災津波遺児チャリティtovo 代表
法永寺(青森県五所川原市)住職
FMごしょがわら「こころを調える(毎週月13:05)」