② なんでこんなことになっちゃったんでしょうねぇ。

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2022.9.7 更新

② なんでこんなことになっちゃったんでしょうねぇ。

小山田和正

6月に更新した初回から、その後更新もせずに3ヶ月が経過、、、自分の怠惰さを反省しつつ、今回の「ちゃんとしたかったのにできなかった」も、さらにサボらせて頂いて、河北新報「座標」に連載させて頂いていた原稿から、2022年5月10日発行のものを転載(校正前の元原稿になります)させて頂きます。許可を得て掲載しております。

「なんでこんなことになっちゃったんでしょうねぇ。」仏壇の前で自死によってご家族を亡くされた方がポツリとつぶやいた。僕が「うーん」と言葉を選びながら言い淀んでいると、それを遮るように「きっと故人も、なんでこんなことになっちゃったのかなぁ、と思っているかもしれませんね。」と続けた。誰に向かうでもない言葉が宙ぶらりんのまま仏間に漂った。

警察庁が今年3月に発表した自殺統計によると、青森県の2021年の自殺者は昨年より35人増え293人。自殺死亡率は全国ワースト一位となり、昨年からの増加幅も全国最大だった。僕もこの1年で何度か自死遺族に触れる機会があり、肌感覚で増加を感じていたし、もともと自殺率の高い県ではあるが、この1年は特に辛く厳しい生活を強いられている方が多い印象を持っていた。

数年前に「布薩(ふさつ)」に関する記事に出会い興味を持った。日本には奈良の唐招提寺を開いた鑑真和上が伝えたものとされているが、ひと月に2度、満月と新月の日に仏道修行者が集い、仏教徒が守るべき規範「戒」と自身を照らし合わせ、お互いに自らの行動を反省し懺悔をする行事のことを指す。宗派によっては、現在も布薩会と呼ばれる儀式を通して残っている寺院もあるようだが、僕には聞き慣れない言葉で新鮮に映った。

仏教の「戒」とは、主に五戒と呼ばれる①命あるものを殺さない ②他人のものを盗まない ③邪な男女関係をしない ④嘘偽りを口にしない ⑤酒を飲まないの五になる。普段の生活では完全に守ることは難しいこともあるが、戒を犯した場合でも処罰はなく、それは僕たちが立ち戻る基点、今、そこからどのくらい離れているかを確認する定規とも言える。つまり、布薩とは月2回、対話を通じて自らを調える機会となりそうだと感じ、参加したい気持ちを募らせ機会を狙っていた。

先日、あるオンラインで行われる布薩会の開始を知り、期待を胸に参加した。僧侶だけではなく布薩に興味のある方も多く集っているようだった。御導師の読経、「戒」に関する法話に続き、小グループに別れ、それぞれが順に自身の振り返りを語り、それぞれがそれを受け止めた。僕も深く考えずに取り留めのない話をしたが、そのこぼれ落ちる言葉を聴いて頂きながら、今の自分が大事だと思っていることに気づき、立ち止まって客観的に整理できる良い機会となった。

縦の糸はあなた、横の糸は私だとしても、会社、学校、家族、人が集まれば、その糸は複雑に折り重なっていく。時に乱れ、時に暴走し、絡み合ったまま、すっかり硬い玉になってしまったことにも気がつかずに、それでも前へ前へと押し出されるように進んでいく。そして、ある日、プツンと切れた糸、それは僕かもしれないし、友達かもしれないが、その糸を前に残された人は途方に暮れる。「なんでこんなことになっちゃったんでしょうねぇ。」

きっと僕たちには、月に2回は、立ち止まって自身を振り返り、それを語りあえる仲間と機会が必要なのかもしれない。僕らの正気を取り戻すために。

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小山田和正 linktr.ee
一般社団法人WORKSHOP VO 代表理事
元)東日本大震災津波遺児チャリティtovo 代表
法永寺(青森県五所川原市)住職
FMごしょがわら「こころを調える(毎週月13:05)」